荒れた手で髪を洗えば絡みつく思考の残滓に傷つけられる
アーケード街を歩いて知っている気がする人の名前を拾う
足音が近づいてくる説明のできない感情ゆらゆらさせて
広々と夕日のたまる空があるもう帰ろうか細長い影
見たことを全て晒して話す時やわらかな時の触れる掌
黄昏の音がしているはっきりと闇の輪郭が浮かびあがる
心とは形状維持ができなくて痛覚だけが通った臓器
膚を裂く雪風がまだ痛覚は残っていると教えてくれた
今日もよくがんばりました見上げれば細い括弧の片割れの月
睨んでる双眸だけがその影を縫いとめているのかもしれない
夕闇が遅延している冬ただなか蛍光灯はレの音がする
吸いさしが細く煙を吐いている忘れた思い出をしまう場所
方眼のノートに文字を書き入れる律儀にペンの影がにじんだ
さよならを鎖編みして潔く冬の夕暮れ暮れてく がちゃり
触れられぬほど離れてはないけれどやさしい距離で眠れない夜
真夜中よ永遠なれぼそぼそした声が耳に届いているこのときよ
まっさらな冬の早朝はりつめた空気に光が凍ってみえる
息が見えるホットミルクもすぐ冷めるはっきり重い雪の結晶
微笑みの意味に今さら気がついた氷柱をつたう水滴の咎
いくつかの器官で再現してみよう嘘と現と幻の冬