Meycough Works

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  1. novel
  2. 奇会的光陰観測
  3. here

有也の母が布団などを用意してくれた。夕飯後、風呂をいただいて、ワタシは有也の部屋に入った。整理整頓が苦手らしく散らかっている。有也の父にも挨拶したが、あまり興味を持たれなかったようだ。その方が助かる。
「ごめんね、瞳子の部屋を使ってもらうわけにもいかないから、狭いけど有也の部屋で」
「いいえ。ありがとうございます」
 有也とふたりになる。
「散らかっててごめんな」
「別に。性格が表れてるなと」
「どういう意味だよ」
「メーコさんが見たらどう思うかな」
「特に感想らしい感想はもらわなかった」
 有也が顔を背けたのは、おそらく感想をもらったからだろう。ワタシにとってはどうでも良いことだが、片づけたくなるのはワタシの性分か。行動には絶対に移さないが。
「で、おまえいつまでここにいるつもりだ?」
「せいぜい1週間くらいかな」
「次のアテはあるのか」
「いや。全然」
 嘘だ。
 ワタシもさすがに、そこまで気楽には考えられない。ただ有也ならこういう返答を期待するだろうという返答をしたまでだ。
「女の子の家に行くわけにもいかないしな」
「まァ、なんとかするよ。それでキミは明日も学校だけど、普段何時まで起きてる人なんだい」
 有也の部屋の時計は22時半過ぎを指している。 「おまえに言われたかないくらい早い。23時くらいだ」
「ワタシは面倒だから眠らないことがあるだけだよ。眠ると時間を損したような気がしてね」
「いつも思うがイラ、おまえ本当に人間か?」
「失礼な。きちんと人間だよ」
 自分では人間だなんて思ったことはない。機械装置研究所はそういうところだった。所長も所員も人でなしの部類に入ることだろう。
 ワタシの言い訳じみた回答は、まだ有也には見破れない。
「逃げきれなかったらどうなるんだ?」
 間を置いて有也はそう訊いた。ワタシは自嘲しつつ、
「さてね。どうなるんだろう」
「知ってるんだろ」
「もちろん」
 結末なんて始まった時から決まっているものだ。未来記に書かれずとも、きっとレールの上を走るしかない。
「……寝るか」
「そうだね」
 ここでメーコがいれば話はもっと盛り上がるのかもしれない。でもワタシと有也にはこのくらいの会話がせいいっぱいだった。
 布団に潜り込み、有也が電気を消す。
 冷えてきたらしい。布団の中がとてもあたたかかった。

翌朝。
 ワタシが起きると、有也はまだ寝ていた。呼吸はしているのだろうが、ぴくりとも動かない。寝返りを打たないタイプなのかもしれない。
「澤村」
 時刻がもう7時を回っていたので、ワタシは有也の肩を揺すった。
「なんだよ、もう食えないって言って……あ? あー、夢か。って今何時だ?」
 有也は時計を見、
「なんでスマホのアラーム鳴らなかったんだ!」
「マナーモードだったんじゃないかな」
「まずい。遅刻する」
 ばたばたと有也は部屋を出、階段を下りていった。ワタシはさて、とカーテンを開ける。リビングに行くと、有也はもう朝ごはんを食べ終えて洗面台にいた。
「おはよう、紫条くん。よく眠れた?」
「はい。ありがとうございます」
 有也の母が「それは良かった」と朝ごはんを準備してくれた。
 ……そうか、ワタシも学校に行くフリくらいはした方が良いのか。ずっと1日ここにいるわけにもいかない。
「そういえば紫条くんは御堂高校に通ってるのよね」
 有也の母に言われ、ワタシは「はい」と返事して食べた。有也から聞いたのだろう。
「遅刻しない?」
「いえ。お気になさらず。そろそろ行きますけど」
 しょうがない。ワタシは有也の部屋で一応持ってきていた制服に着替え、荷物らしく見えるバッグを持ち、澤村家を出た。
 どこへ行こうかとワタシが考えていると、空からキャスターつきの旅行鞄に乗った女性が下りてきた。
「久しぶりね、義弟くん」
「やめてくれ。ワタシの家族は清にぃだけだ」
 紫条梨希である。ナシキは旅行鞄に乗って飛行する魔女だ。ワタシの未来記を試すために殺人事件を起こすような女性である。
「あらそう。構わないけど。それで、追い回されて探し回られて困ってるそうね?」
「アナタの耳の早さには驚くばかりだよ」
「メーコちゃんから聞いたの。むしろあなたが伝えて欲しいって言ったみたいだったけど?」
「言ったね、確かに。アナタも危ないかもしれない。ワタシが清にぃに顔向けできなくなるようなことは避けたいんだが」
 あら、とナシキは笑う。
「あなたの未来記が正しければ、今回わたしは関係ないでしょうに」
 ワタシの未来記ははずれない。ナシキがいつ死ぬか分かっているので、今回でないことは確かだ。
「これからどうするの?」
「さあ……学校には行かないよ。学校には行かないだろうって研究所も踏んでるだろうから、敢えて行くのもひとつの手なんだろうけどね」
「確実に連行されるわよ」
 だからワタシも学校には行かない気でいたわけだが。
「カラオケにでも行くかな」
 ナシキは首を傾げ、
「わたしの大学に来ない?」
 予想外すぎる答えにワタシは言葉を失った。
「あなたでもそこまで驚くことがあるのねえ」
「なんで御堂大に」
「良いんじゃない? イラは大人びた顔してるし、私服でいたら学生としか思われないわよ。大学図書館は蔵書が多いわよ、入ってみたくない?」
 それはとても魅力的な提案だ。ワタシは本の虫である。
「どうするの?」
 一瞬、ナシキが悪魔に見えた。